大会趣意
全日本学生弁論大会は、ついにその灯を掲げて14回目の節目を迎えた。時をさ
かのぼれば、60年代の暴力的学生運動の奔流が過ぎ去り、気づけば弁論という
文化は「冬の時代」を迎えていた。そして、コロナ禍という苛烈な試練に立ち向か
いながらも、かつて寂寥を隠せなかったこの舞台は、幾多の先輩たちの不断の努
力により、その寂しさが目を見開くほどに息吹を取り戻し
た。しかしながら、その火は果たして、いまだ深い闇に覆われた世界の隅々にま
で光を届けているだろうか?残念ながら、その答えは「否」といわざるを得ない。
いま我々を取り巻く世界は、急流が如く変貌し続けている。その様相は、戦火に
包まれた夜のようだ。コロナウイルスが落とした太陽の影が明けたかと思えば、
ロシア・ウクライナ戦争、パレスチナ・イスラエル間の衝突が新たな火種となり、
資源高騰や停滞した政治、新旧価値観の軋轢と衝突が、私たちの社会に深い分断
と絶望、不安と混迷をもたらした。世界はあたかも月も星も戦火に隠れた夜のご
とく、進むべき道筋もわからず彷徨い続けているように見える。果たして太陽は、
その光を失ってしまったのだろうか?
否――太陽は死ぬはずがない。闇夜を切り裂いて月は未だ空で我々を見守り、
星は静かにしかし強かに輝き続けている。草花は暗く凍てついた大地に力強く芽
吹き、消えゆくものはまた新たに生まれ変わる。命の喜びは、確かにその存在と
鼓動を響かせるのだ。私たちはまだ、20余年を数える青き学生に過ぎない。だが、
その手に持つ可能性を、夜明けへの一歩として歩み出さ
ぬ理由など、どこにもないではないか。この暗く、凍りつき、誰もが信じるべきも
のを見失いかけている世界において、我々こそが希望の黎明を告げる光となろう
ではないか!
結びにあたり、本大会の開催にあたり尽力いただいた全ての方々に、心より感
謝申し上げる。この大会が、私たちが日々磨き上げ、受け継いできた思想と思索
を高らかに響かせる場となり、自由闊達な議論の花が咲き誇る空間となること。
そして、ここに集う全ての者が、未来を切り拓く灯火となり、闇夜を照らす太陽と
なることを祈り、大会趣意とさせていただく。
第十四回全日本学生弁論大会実行委員長
明治大学雄辯部 稲葉友春